週刊東洋経済「経済学者が読み解く現代社会のリアル」参考文献

後半部で取り上げました、ザンビアにおける研究は以下の論文を要約したものになります。

Miura, Ken, Yoko Kijima, and Takeshi Sakurai. “Intrahousehold Bargaining and Agricultural Technology Adoption: Experimental Evidence from Zambia.” (2020). リンクはこちら

また本文の前半部分で言及した内容は、以下の論文の要約となっております。

観察データに基づく実証研究

  • Thomas, D. (1990). Intra-household resource allocation; an inferential approach. Journal of Human Resources, 25, 635-664.
    • ブラジル都市部。母親に帰属する不労所得(年金、社会保障給付、金利収入、家賃収入、ギフトなど)の増加分のほうが、父親に帰属する不労所得の同額分の増加分よりも、子どもの生存率、栄養価の高い食事摂取、そして子どもの健康状態と強い関連性があることを報告。ただし、男性の不労所得に比して女性の不労所得が多い家計は、女性の不労所得が少ない家計と、様々な側面で異なっている可能性があることに注意が必要。
  • Hoddinott, J., & Haddad, L. (1995). Does Female Income Share Influence Household Expenditures? Evidence from Cote d’Ivoire. Oxford Bulletin of Economics and Statistics, 57(1), 77-96.

自然実験に基づく実証研究

  • Lundberg, S. J., Pollak, R. A., & Wales, T. J. (1997). Do Husbands and Wives Pool Their Resources? Evidence from the United Kingdom Child Benefit. Journal of Human Resources, 32(3), 463-480.
    • イギリス。子ども手当が、父親の所得税支払いに関する所得控除という様式から母親への直接給付という様式への政策変化の前後を比較。(時の大臣はこれを“金曜日の夫のポケットから翌週火曜日の妻の小銭入れへ”と表現した。)その結果、政策変化後、男性服への支出に比して、女性服および子ども服への支出が増加するなど、家計支出パターンの変化が観察された。ただし、実証戦術は前後比較であり統制群が不在のため、メインのメカニズムとして考えている夫婦間交渉力ではなく、政策変更が服装への嗜好や景気など第3の要因の変化を引き起こしている可能性がある。
  • Duflo, E. (2003). Grandmothers and granddaughters: old‐age pensions and intrahousehold allocation in South Africa. The World Bank Economic Review, 17(1), 1-25.

RCTに基づく実証研究:受給世帯と非受給世帯の比較

  • Attanasio, O., & Lechene, V. (2010). Conditional cash transfers, women and the demand for food (No. 10, 17). IFS working papers.
  • Attanasio, O., Battistin, E., & Mesnard, A. (2012). Food and cash transfers: evidence from Colombia. Economic Journal, 122(559), 92-124.

RCTに基づく実証研究:受給世帯の中で受取人の異なる家計を比較

  • Armand, A., Attanasio, O., Carneiro, P., & Lechene, V. (forthcoming). The Effect of Gender-Targeted Conditional Cash Transfers on Household Expenditures: Evidence from a Randomized Experiment. The Economic Journal.
    • 北マケドニア。子どもの中学校就学を条件とした現金給付の受取人(母親vs.父親)を市町村ごとにランダムに割り当てた政策に着目。その結果、母親が受け取った家計は、平均して4-5パーセンテージポイント分、総支出に占める食費割合が高かった。貧困家計については、母親が受取人の場合、栄養価の高い食品購入へのシフトも確認された。
  • Haushofer, J., & Shapiro, J. (2016). The short-term impact of unconditional cash transfers to the poor: experimental evidence from Kenya. The Quarterly Journal of Economics, 131(4), 1973-2042.
    • ケニア。国際NGOであるGiveDirectryが実施したケニア農村部に居住する貧困家計への現金給付プログラムを評価。給付には携帯電話送金サービスであるM-Pesaを使用。プログラム内の処置(トリートメント)の一つに受取人のランダム割当がある。その結果、ストレスレベル(夫と妻の唾液サンプルから採取されたコルチゾールの水準で計測)や妻のエンパワメント指標(家庭内暴力や規範などの要約値)に関して、妻が受取人に指定されていた家計のほうが、夫が受取人として指定された家計よりも望ましい影響を示していた。ただし、複数の処置が混在しているため検定力が低く検知された統計的有意性も高くない。